『朽ちていった命 ー被爆治療83日間の記録ー』を読んで。
今日読んだ本は『朽ちていった命』(新潮文庫)という本。東海村のJCOの施設で起こった被曝事故で被爆した作業員の治療が主な内容になっています。
おおよそ1ヶ月前に購入していたのですが、最近になって読みました。
内容に関して
この本は報道関係者の取材に基づく本であることが原因なのか、あくまでも作者の価値観というものがほとんど現れません。これまで読んでいた新書とは全く一線を画するものといえます。事実の描写、治療の記録、医療関係者や家族の思いが淡々と書かれていました。
が、逆にそれが放射線被曝の被害の恐ろしさをかえって増幅させていたと思います。入院して一週間目のAさん(被爆された方)の容態はどうだったのか。初めてAさんと会ったときの看護師や医師の率直な感情がどんなものであったのか。確かに初めのうちはそのAさんの見た目は何の変化も見受けられないことがわかります。
しかし、被爆から1週間が経過した頃から放射線の一つである中性子線によって染色体を完全に破壊されてしまったAさんの幹細胞は増殖不可能となり、身体は徐々に内側から蝕まれていきます。そして、蝕まれていくAさんの身体はどうなっていくのか。それは文章と本中にある写真を見る限り想像を絶するものでした。身体の免疫はほぼなくなり、強い放射線を浴びた部分は皮膚が全てはがれて赤くなり、内臓の粘膜はなくなり、日を追うごとに身体からの体液の流出がおびただしくなっていきます。
そういえば、この本を読んでいたときにふと小学生の頃に読んだブラックジャックのある話を思い出しました。かすかな記憶によればその話というのは、主人公のブラックジャックが原爆によって白血病を発症した患者に手詰まり状態になるというものでした。ブラックジャックが書かれた頃と今回の事故はおおよそ30年の月日が経っていることになりますが、未だ、というより2018年になっても、被爆治療に関するノウハウというのは全くと言っていいほど蓄積されていないのではないでしょうか。
現場にいる医療関係者もブラックジャックと同様自分の無力感を感じるとともに、回復の見込みがない患者への葛藤を抱いていました。彼らは自分たちがやっていることの意味や、患者が痛みを味わい続けなければならない治療に疑念を抱いたのです。確かに原子力存続に対する作業員の人命軽視という点もこの本は問題にしているのですが、「医者である以上、苦しませてでも絶対に患者を死なせないようにしなくてはならないのか?」というような問いかけも同時にしていると思いました。
さいごに
この本に点数をつけることにものすごくためらいを感じているので、採点はしないことにします。強いていうならば、この本にマイナスとなったような要素はありませんでした。
今日はこの辺で。
それでは。
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