おりじゅのブログ

1日1投稿を目安にブログをやっています。ページ右部にカテゴリがあるので気になる方はそちらもどうぞ!

レベッカ ソルニット 『災害ユートピア』を読んで(その1)

今日読んだ本は『災害ユートピア』(亜紀書房)という本。まだ道半ばではありますが、読破して全ての章について書こうとすると文字数がとんでもないことになりそうなので、2分割することにしました。

f:id:hanoian:20180622215813j:plain

表紙です。右下のステッカーからもわかるように、図書館から借りてきました。

災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 

 この本は主に近代に入って北アメリカで起こった災害における人々の反応を描写していくものです。もちろん、この本では当時の人々の描写のみならず、行政の反応やそれに対する著者なりの批判を加えています。

 

では、それぞれの章の流れを大まかに解説していきましょう。

 

第1章:1906年のサンフランシスコ地震

 1906年アメリカのサンフランシスコで大きな地震がありました。多くの建物が倒壊・消失し、人々は自らの居場所を失いました。このような状況下の中では人々は自分の生存に関する危機が迫っているわけで、暴徒化して略奪行為を行うことが十分予測されていました。

 しかし、人々はそれとは全く対照的な行動を取り始めました。みんなのために炊事を行ったり、高齢者や子供の世話をしたり、あるいは家に被害が出ていない人はその家の部屋をを被害に遭った人のために貸し出したりしました。このように人々は利己的になるというよりも、むしろ利他的になったのです。災害が助け合いの世界を作りました。

 もちろん、地震の時には略奪や放火といった犯罪に及ぶ人もいました。しかし割合にすれば、ほんのわずかです。ではなぜ被災地の外側にいる人間は被災地の深刻な被害や火事場泥棒といった治安悪化を極端に気にするのでしょうか?

 その一つの要因は、メディアの特徴にあるといえます。報道が深刻な影響を受けた一握りの人々に焦点を当てようとする傾向がある以上、普通の生活からは切り離されたとはいえそれほど被害を受けていない、助け合いを行っている人々には焦点が当たらないのです。

 筆者は多数派が形成するこの助け合いの世界を”ユートピア”と呼びました。しかも、このユートピアは規律や排他性といった宗教的な要素もイデオロギー的要素も持ちません。どんな社会的階級の人々にも開かれていました。地震後のつかの間でしたが、サンフランシスコにはこのような世界があったのでした。

 

第2章:ハリファックスでの爆発事故・WW2におけるロンドン大空襲

1917年のある日、カナダのハリファックスで3000トンの兵器や爆薬を積んだ貨物船が大爆発する事故が起こりました。およそ半径1.5キロの建物が完全に破壊されるほどの爆発でした。大空襲の方では、ドイツ軍による50日以上の夜間爆撃に対する人々の反応を描いています。

 ハリファックスの人々の反応は基本的にサンフランシスコでの地震と同じでした。災害が起こるやいなや、人々は自ら新たな役割を担ったり、避難所にいる人と協力して避難生活を送ろうとしました。当時のカナダには未だ厳格な階級社会が色濃く残っていたのですが、今回の事件を受けて社会は一時的に階級面で統合された社会となりました。

 ロンドンの大空襲では、人々は長期間の空襲におびえ、パニック状態に陥るのではないかと予想されていましたが、地下鉄の構内には家を爆撃で破壊された市民同士が共同生活を送る姿がありました。

 

2つの章に共通していえること

 両章に共通している点、それは権力者側の恐怖心と抑えつけようとする力です。権力者側、すなわち政治家や官僚は人々がパニックを起こして暴徒化することをきわめて恐れました。そして、アメリカとカナダで発生した災害については、災害直後の犯罪に強い警戒の念を抱いていました。火事場泥棒に対してさえも射殺が許可されていたのです。

 もちろん、公権力側の指示を受けて活動した警察組織や兵士の多数はその大規模な人数を活かして救助活動に賢明に取り組んでいました。しかし、市民を統制しようとしていたことはその活動内にも見られました。彼らは食料切符制を導入しようとしたり、別の場所が避難場所に指定されたという理由で避難してきた人たちへの治療活動を止めさせようとしたりしました(人々が強く反対してその指示は実行されなかった)。このように、必ずしもお上からの命令が現地で適当に機能していたかどうかについては大きな疑問が残りました。

 

前半部分を終えて

本当は両章の問題点はまだいくつかあったのですが、それは後半部分にもおそらく現れてくると思われるのでそのときに解説しようかと思います。

 

それでは。

 

翌日の投稿:

hanoian.hatenablog.com

 

昨日の投稿:

hanoian.hatenablog.com